Column
#012:いつまでも あると思うな 豊かな自然
●今回は東北の話です、が他人事ではないようです
 白神山地といえば1993年にユネスコに世界自然遺産に登録された世界最大規模のブナ原生林で、有名なところではアニメもののけ姫≠フ舞台として屋久島の原生林(こちらも1993年に世界自然遺産に登録)とともにモチーフとなった所です。この白神山地周辺では蝦夷(エミシ)の文化が残っているといわれ、熊狩りで古くは平安時代にその歴史が遡るマタギ≠ヘその典型だといわれています。
 蝦夷(エミシ)やマタギについては日を改めてお話しするとして、今回は白神山地を水源とする河川のお話です。以前白神山地を訪問するきっかけとして追良瀬川でサクラマスを狙おうと調べてみましたが、ダイワ精工のHPで追良瀬川は全面サクラマス捕獲禁止≠ニあったので断念しました。加えて青森県ではサクラマスは6月にならないと解禁≠ノならないそうなので(本当か?)「それなら山形や秋田あたりでいいか」「仙台周辺でも釣れるからなぁ」となってなかなか足が向きません。
image photo
 
image photo  それでもイワナとヤマメの魚影の濃さは半端ではないそうなのでいずれ近いうちに竿を出したいものだと考えています。普段はヤマメより釣り人の数のほうが圧倒的に多い不健全な枯れた川≠ナの釣りを余儀なくされている私としてはつくづくウラヤマシイ…
 それでも「50年ほど前は魚影で川の色が変わるほどサカナがいた。当時に比べればサカナがだいぶ減ってしまった」のだそうです。その原因として指摘されているのが違法な釣りの横行≠ナ、禁漁区の白神山地への入山者の7・8割が違法釣り行為をやらかしている事実が挙げられています(河北新報;2006/8/13)。入山申請者の割合なのか監視員の巡回によるおおまかな割合なのかはともかく、それだけの割合で密漁をやらかしていたらさすがにサカナの数も減って当然でしょう。世界に誇る白神山地も一皮剥けば何やら人間のエゴで引っ掻き回されているようです。
 そこで少し調べてみたところとても複雑な問題が次から次に浮かび上がってきました。

TSUTAYA online 日比谷花壇のサマーギフト

●原生林の恵みを享受する権利
image photo  白神山地を水源にする3河川の釣りに関する規則はそれぞれの管轄漁協が、森林に関しては国有林となるので林野庁と異なります。問題は巡視員は林野庁の管轄の人間(漁協組合員は許可を取らないとは入れない)なので違法入山者への警告はできても入山許可さえ取っていれば違法な釣りをしても管轄が違うので口頭注意が精一杯、というのです。
 なんともお粗末な縦割り行政の一例となっていますが、口頭注意したら釣り人に囲まれて「怖い思いをした」かわいそうな巡視員さんの例も一つやふたつではないそうです。ここまで来ると釣り人はもはや単なる釣り人の域を超えて厄介なチンピラ集団≠ニ化して笑い事では済みません。
 と、ここまでの話で終わらせると釣り人は「自然破壊を喜んで行う悪党」という図式が出来上がってしまい同情の余地もありませんが、実は視点を少し変えるといささかの同情の余地ができます。
 
 古来白神山地から奥羽山脈一帯は広大なブナの原生林が広がっていました。この広大な原生林を背景に9世紀ごろまでには独特な文化が生まれました。それが先にも述べた食肉や皮革製品・山菜等を都に売って独自の文化を形成した蝦夷(エミシ)であり、独自の狩猟技術で発展したマタギです。
 白神山地に多くいたマタギも今ではほとんどの集落で絶えてしまったとか…後継者問題などもあるのでひとえに言い切ることはできませんが、白神山地が世界自然遺産登録され入山に制限が入ったのも一員であるとしたら、独自の文化がひとつ途絶えてしまう代償はどう払っていくのでしょう?
 とかく日本人は文化に対しての意識が軽薄すぎる事実はともかく、日頃山からの恵みを享受する℃魔当然の権利としている地元民にしてみれば、よそ者から見たら違法行為でも先祖伝来の伝統に従っているだけという意識のギャップが生じてくるのではないでしょうか。。
image photo


●要するに、バランスです
 さらに太平洋戦争終結後の戦後復興で大量の木材が都市部で必要になり、ブナの原生林も切り開かれ代わりに早く建築材に適した大きさに育つ杉が植樹されていったのです。かくしてブナの原生林はそのテリトリーを狭め、そこら辺杉の木だらけになった、と。
 国やよその都市部のために原生林の多くの面積を奪われ、今度はそのよそ者が「残った原生林を守りましょう」と道路設備工事(白神縦断道路)に反対するために立ち入り禁止にされてしまっては地元民の中でも面白くないと思う人も多いことでしょう。そんな軽薄なご都合で自分たちの森を引っ掻き回されては迷惑だ、という反発が生まれても人情としては同情できます。
 しかし根絶やしになるとしたら、そんな反発心は陳腐な言い訳にしかなりません。どこのマタギのシカリ(首領)も根絶やしを厳しく戒めているのですから。
image photo
 
 違法の釣りが横行する背景には地元の文化伝統を無視したよそ者の干渉≠ェ少なからず住民感情に影響しているようにも感じられます。おそらく半ば強引に保護≠執行してしまったのではないか、とよそ者の私は感じてしまうのですが実際のところはどうなのでしょう…とりあえず登録はしたものの保護維持に対する行政などの組織形態はお粗末としか言いようがありません。
 いずれにしてもこの原生林は守っていかなければなりません。まずは明らかに縦割り行政≠整備しなければならないのですが、「悪い事をしているのだから捕まえてしまえ」だけでいいのでしょうか。例えばアメリカのような森林警備隊を組織して独自に逮捕拘留権を与えたとしたら…たかが駐車違反で暴力沙汰に発展するのですから流血沙汰は必至ですね。何より山の恵みを教授する権利≠ヘどうなってしまうのでしょう。
 実はこの問題は白神山地だけでなく日本中の山間部に突きつけられている問題なのです。
image photo
 
image photo  違法釣り人を取り締まるのに格好の例がイギリス・スコットランドにあります。
 イギリスではサカナも女王陛下のものという原則があるため魚種の保護のために厳しい入場制限を加えており、スコットランドではギリーと呼ばれるフィッシング・コーディネイター兼リバー・キーパーが同行しなければ釣りができません。ギリーは決して同行中に竿を出すことはなく釣り人を補佐しつつ違反を取り締まる役目を負ってます。
 例えばこのシステムを白神山地に当てはめるとします…釣り人は多少金が掛かるものの安全は保障される、ギリーが同行すれば根こそぎをやったら即退場させられますし、新たな収入源となって白神山地の管理維持の資金の足しにもなります。これを釣りの達人ばかりでなく山のプロ<}タギの方が勤めたとしたら…飽くまでも仮の話ですが希望の光が見えてきます。
 そろそろ人間側の意識を変えていく必要があるのではないでしょうか…「ダメ」「禁止」ばかりではバランスが保てないものがある、と。