Column
#022:ところで“ドライ・ロッド”と“ウェット・ロッド”って?

● 今回はフライロッドの話 … でもルアーの人も、読んで損はありません
 
 URARYOUSHI Custom Shop を“仮”オープンしてそろそろ“本”開店してもいいのですが、私自身が本厄というメンドクセエ周期に入っている。実際科学的根拠は薄いのですがなんかどこか気持ち良いモノではない。というわけで厄明けの2009年に“本”オープンする予定です。
 お陰様でほとんどのバンブー・フライのブランク・デザインは完了し、あとは作製・販売に力を入れるばかりとなりました。当工房のバンブー・フライロッドの特徴は 1)国宝の修復にも用いられる国産漆を使用した総漆塗り 2)源流用渓流ロッドから湖沼用ロッドまでと幅広いアイテム それに 3)本流ウェット専用ロッドがある という3点に見ることができるでしょう。

 ところで皆さん、『ドライフライ・ロッド』とか『ウェット・ロッド』とかいう単語を耳にした事はありませんか?特にフライ初心者のうちだと「別にバンブーなら何でも出来ちゃうんじゃねえの?高いんだし」と雑に考えがちなようです。もちろんこんな考え方は大間違い。
 今回は「実はあまり良く理解されていない」ドライフライ・ロッドとウェット・ロッドについてのお話です。


● ウェット・ロッドはイギリスがルーツ
 
 18世紀頃確立したといわれているフライフィッシングはイギリスのもの。そもそもフライフィッシングはウェット・フライから始まったと言って過言ではありません。
 その根拠として、世界最古のフライ・パターンである〝ソフトハックル・フライ〟はウェット・フライだという事。以前にも事ある毎に触れてきましたが、このパターンは古代マケドニアのアンドレア人が使用していたパターンと同じものであり、現在確認できる世界最古の毛鉤である事から釣法も現在で言うウェットのアプローチであったのではないかと推測できるのです。
 1800年もの時を経てより多くの糸を巻き溜めて毛鉤を流す範囲を広く取れるように進化したフライフィッシングは、スイング&ターンという攻め方が広く行われるようになりました。この時点でフライ・フィッシングの最も基礎的な部分が確立されたのです。
 
 スイング&ターンはラインを流れに絡めるのが基本動作。となるとライン伝いにロッドにテンションが掛かります。これをある程度吸収するショック・アブソーバーの役目を与えるためにロッド全体がしなってくれるロッドのほうが釣りが有利になる、さらにサカナがヒットした時にさらにしなる余地を残さなければ弾かれてしまいいつまで経ってもサカナが掛からない。というわけでひと振りすると手元から曲がってくれるロッドが良い、という事になります。
 イギリスでのメインターゲットはサーモンとブラウントラウト。春先には雪解け・雨期には増水して当たり前という河川の条件も加わってロッドにトルク(粘り)を与える〝ブランク重量〟が重要で、重くないと流れに負ける軟弱ロッドになってしまうのです。
 というわけでイギリスのロッドは概して重くてパラボリックなウェット・ロッドがトラディショナルとなるのです。


● ドライフライ・ロッドはアメリカ発祥
 
 アメリカ東海岸ではスプリング・クリークや湖沼でも釣りがメインになってきます。対象魚も微妙に変わってイワナ的なブラウントラウトから表層がレンジのレインボーに。
 最初はイギリスから持ち込んだロッドを使用していたアメリカ人は環境が変わってかなり不便に感じるようになった。加えてイギリス本土でウェット・フライが発展したドライ・フライやニンフを持ち込んだは良いがフィールドが広くなった分ヒットするポイントが遠くてフッキングがひと苦労。というわけでバットに張りを与えて遠くに飛ばせてアワセもシャキッと決める事ができるようにロッド・デザインを先調子なモノに改良していった。というわけ。
 というわけでアメリカのロッドは概してファスト・テーパーがスタンダードととなるのです。
 
 そしてウェットのように竿を横に構えラインを流れに絡めるのではなく、ラインを流れから交わす〝ナチュラル・ドリフト〟とフライのアプローチも劇的に変わってロッドはさらに変化していきます。
 ナチュラル・ドリフトを実践する上で問題になるのは『ロッドを掲げて構える』事。高く掲げて構える際ロッドが重いと疲れてきますね。出来るだけ軽いほうが長時間構えていられて楽だ。というわけでドライフライ・ロッドは軽ければ軽いほど良い、と『軽量化』の研究が行われてきたのです。
 ただしロッドブランクというものは軽量化するとトルクが小さくなるという宿命を持っています。そこでバンブーではブランクによく焼きを入れて反発力を増してパワーを増すという製法が編み出されました。後にグラファイトの時代に入るとカーボン圧縮比が異なるものを組み合わせてロッドを作るようになりますが、基本的にはバンブーと同じ発想で反発力を確保しているのです。
 
 バットに張りを持たせ、軽量化に成功したドライフライ・ロッドですが、水面での勝負に特化して入るものの、水面下の釣りとなるとバットの強さが仇になります。
 水圧というものはこちらの想像を超えた威力があるもので、バットを強くした分ショックを吸収する箇所が限られてしまい、結果水圧が加味された細いティペットは耐え切れずアワセ切れが頻発してしまう。という事でドライフライ・ロッドをベースにテーパーを寄りマイルドな曲線を描くように改良し、ブランクに水圧による負荷を吸収する余地を作ったのです。
 これが〝ニンフ・ロッド〟というものです。
 ニンフ・ロッドはドライフライから派生したロッドです。加えて「ロッドを掲げてフライを自然に流す」釣法である事に変わりがないため重いブランクは使いづらい。どうあっても軽量になる道程を経てきたのです。
 
 ここは蛇足的な話ですが、日本の渓流ロッドでは英米以上に細いティペットを好むがためにドライフライ・ロッドよりニンフ・ロッドを好む傾向にあります。
 よりナチュラル・ドリフトを加えやすい、サカナにティペットを視認させにくい、と諸説唱える人がいますが、日本の渓流では『より細いハリスで釣り上げる』事に悦びを見出すエサ釣りの慣習が大きく影響していると考えられます。というわけでアワセのショックを吸収してくれるニンフ・ロッドは充分日本のスタンダードになりうるのです。
 しかし日本の釣りは欧米のようにこのフィールドにはこのロッドと雑に語る事は難しい。釣り人の特性から積極的にアワせていく『掛け調子』すなわちドライフライ・ロッドと穂先の追従性に優れた『乗せ調子』すなわちニンフ・ロッドがひとつのフィールドで存在するのです。実は釣り人の癖まで考えてロッドを作っているのは日本くらいなものなのです。
 
 さて本題に戻りますが、時々『ウェットにも使えるオールマイティ・ロッド』を謳ったロッドがありますが、これはほぼニンフ・ロッドを差しています。その根拠としてロッドのしなり(URARYOUSHI Custom Shop では〝テーパー〟と表記)だけで判断しているものと思われます。
 しかし突き詰めていくとニンフ・ロッドには根本的にトルク(粘り)が絶対的に足りません。平常水位や減水時ならともかく雪代等で増水した水圧に対抗するには反発力(パワー)だけではどうにもなりません。
 ウェット・ロッドとドライフライ・ロッドの違いを知らないと、ウェットにも使えるオールマイティ・ロッドを購入して「使えねえ!失敗した!」と嘆く事になるのです。


● 割とコマーシャル的な話ですが
 
 URARYOUSHI Custom Shopでは過去のフライロッドの進化を見据えてブランクをデザインする所から始めています。
 単なる昔の名竿のコピーではなく、相当不便でも雰囲気を楽しむ的なロッドでもなく、飽くまで釣るためのロッドを作るには先人の意見や知恵が何よりも重要なデータとなります。
 例えばヤマメ用ICANKOTはドライフライで釣る事を大前提に作成しています。そのためファスト・テーパーの典型的なドライフライ・ロッドですが、対象魚がヤマメという事でDT3も投げられるDT2にパワーダウンする事で『釣り心地』を確保しています。
 重量も90g台という、バンブーロッドにしては相当軽い部類に入る重量に仕上げています。
 しかしICANKOTは完璧ではありません。基本的に『掛け調子』なので釣り手によってはストレスを感じてしまう。という事で現在『乗せ調子』の〝ICANKOT SP〟を設計中です。
 
 反面重量300g以上のEMUSは決定的に重いです。
 加えて手元から曲がる元調子、現在の日本の工房では「バカじゃねえの」的に売れ線から外れたロッドです。
 しかしこれは全てウェット・フライのスイング&ターンには欠かせない要素です。
 完全な『乗せ調子』で水流がもたらす水圧まで乗せてしまうのでブランクそのものにトルクが必要、という事で300gという時代遅れなまでの重量を与えているのです。加えてこのトルクは掛けたサカナの挙動を押さえるという副作用ももたらします。これは実際に1尾掛けてみると実感する所で、徹底的に軽量化されたグラファイト・ロッドと比べると「あまり走られない」事を実感する事でしょう。

 これらの『ロッドの基本』を元に、フライ以外のロッドのデザインも現在進行形で構築中です。


● フライに限った話ではない ロッド選びに役立つ〝ムダ知識〟
 
 例えば初心者がほぼ始めてのルアー釣りで管理釣場でトラウト釣ろうとしているとする。
 そんな時どうしてもブランクの持つ特性を理解し切れていない経験者は有名メーカーのロッドを薦めますが、有名メーカーだって完璧ではありません。モノによっては玄人好み丸出しで初心者には却って扱い辛い代物かもしれません。
 ブランクの本質から考えてみると…ブランク自体に重量があるもののほうがサカナの横っ走りを抑えてくれるトルクが生じる、ならば同じ素材でもチューブラー(中空)よりソリッドのほうがよりトルクを発生してくれる、ならばソリッドのほうが初心者には扱いやすいとなる。加えて近年流行の『渓流でのロングビルミノーのトィッチング』によるアプローチはブランクに粘りがあるほうが水流に立ち向かうだけのトルクが要求される。
 ところがこのようなロッドは発想すら持たれない。
 
 そんな観点から、URARYOUSHI Custom Shop では基本的に粘りのあるグラスファイバー製のトラウト・ルアー・ロッドを敢えてソリッドのブランクで採用した機種を作製しています。基本トラウトルアーは猫も杓子もパラボリックと叫ばれているが、用途を考えるとこんな偏見に囚われている場合ではない。しかし団塊の世代的に何でもかんでも目クラ滅法に天邪鬼になれば良いというものではない。本質を考えていくと色々な発想が芽生えるものです。
 それがロッドをデザインする奥深さであり醍醐味ですが、実際には圧倒的大多数の人が既に作られたものを選んで購入するだけなので果たしてブランクの本質を知る必要があるだろうか。
 もちろん何の疑問も抱かなければまるで必要のないムダムダ知識でしかありません。結局これだけの事を知っていてもそれぞれの釣り人が自分でどうこう出来る範疇ではありませんから、ハッタリ咬ます材料以上にはなりません。
 
 しかし一見すると「でも、自分でロッド作らないから」な人でも、思いがけないところでこの情報が生きてくるんです。
 例えばバス釣りをやっていてリグに対応した専用ロッドがほしいとステップアップしようとした時、今度ヘラブナ釣りに手を出してみようと思った時、今度ボートジギングでデビューしようと思った時など。新たな領域の釣りに挑戦する時迷いなく選べるようになってしまうのです。
 最近では「メガバスがいいよ」「いやダイワだろ」などとメーカーでしか判断しない傾向がやたら強いので「なんだよ、そのロッド買ったの?」と買ってから色々と言ってくるウザイ連中に悩まされる事も少なくありません。が、しっかりとした根拠があればただの雑音でしかない事に気づき、「ウルセエな気持ちワリイ」で済んでしまいます。
 兎角思考を完全停止させる事に抵抗の無くなった時代ですが、実は頭を使う事は、とっても楽しい事なのです。


all photographs are reserved by URARYOUSHI